AI導入に潜むリスク

「サクっと」のつもりがズッコケた。 AI導入の落とし穴

デジタルテクノロジーを使った企業変革は、「喫緊の課題」「最優先事項」「競争力の源泉」といった表現のもと、多くの企業が取り組みを始めています。特に、対話型AIは市場規模を急速に拡大しており、矢野経済研究所の調査では2017年の11億円から2022年には132億円にまで成長することが予測されています。デジタル活用は、いまや実践フェーズへと移行し、各種データやAIを活用したチャットボットが、多くの企業で最初のステップとして取り入れられています。

「サクっと」のつもりがズッコケた。AI導入の落とし穴

ところが、取り組みを始めたものの、想定した成果を出せずに苦しんでいるケースが散見されるようになりました。その原因は、「目的が不明確」「活用データが足りない」「運用できる人材がいない」など多岐にわたり、AIへの過度の期待や見切り発車に対するしわ寄せが現場を苦しめています。「早急にデジタルを活用すべし」というプレッシャーから、目的が不明確なままツールの導入を進める、AIの強みが活かせない分野へ適用する、課題にフィットしないAIツールを検討するといったケースも見受けられます。

AIやチャットボットでできること、できないこと、やるべきことを正しく見極め、成果を見据えたうえで取り組まなければ、無駄な投資になってしまう危険性があることを理解しなければなりません。

AIが成果を出しやすい取り組み
「問い合わせ業務からの解放」が現実的に

AIが成果を出しやすい取り組み「問い合わせ業務からの解放」

ビジネスでのAI活用として多くの企業が検討を始めるのが、チャットボットを使った問い合わせ業務の効率化です。社内規定やITに関する問い合わせが頻繁に届き、そのたびに業務が中断される弊害は、昔からバックオフィスを悩ませてきました。日々増え続ける情報や問い合わせキーワードの多様化により、グループウェアや社内ポータルへの情報掲載では限界があります。

スピードを要求する事業部門は、必要な情報が見つからないことで発生する機会損失にも敏感です。業務に必要な企画計画書、報告書、提案書、稟議書や契約書といったドキュメントの検索に時間がかかる、適切な文献や調査資料のデータが活用できないことは、ビジネスへの影響も計り知れません。「知りたいことがすぐに知れる」という当たり前のことが実現できれば、業務は大幅に改善されます。

質問形式で回答へ導いてくれるチャットボットなら、実際に人と対話をしている感覚で活用できます。質問の仕方があいまいでも、チャットボットとの対話を繰り返すことで、質問者を目的の情報に近づけ精度の高い回答を返すことができます。適切な検索キーワードが分からなくとも目的の情報にたどり着くことができるのは、ウェブサイトへのFAQ掲載とは大きく異なる点です。

機械学習をはじめとするアルゴリズムの進展、活用データの増加、高い処理能力を要するハードウェアの低価格化によって、AIを搭載したチャットボットが、いまや課題解決の有力な選択肢となりました。そして、こうした時流に乗り先行する企業が次々とチャットボットを導入し業務の効率化を進めています。

それでも失敗するケースがあるのはなぜか

こうした時流に乗り、先行する企業が次々とチャットボットを導入し業務の効率化を進めてきました。しかし、少なくない数の企業が、想定していた効果を得られないままプロジェクトを停止、中止させていることはあまり知られていません。

通常のチャットボット導入はシナリオ構築やデータ整備、FAQの精査などあらかじめ準備作業が必要とされます。ツールによっては、想定される質問シナリオを用意し、ルールベースの判別ロジックを延々と組む作業が必要で、多忙な担当者が対応できるはずもありません。導入後も、定期的なメンテナンスにより地道に回答制精度を高めることが重要な一方、その作業負担が大きいことで頓挫するケースも多くみられます。業務効率の向上を目的としていたはずが、反対にチャットボット関連の業務が増えてしまったという結果にもなりかねません。

それでも失敗するケースがあるのはなぜか

導入決定後に、想定以上のデータが必要となることが判明し、データ不足により回答精度の低いチャットボットができあがってしまうのも、よくある失敗例の一つです。機械学習を活用している以上、学習データの充実は避けて通れない問題です。しかし、AIに学習させるデータがFAQだけで済み、少ない運用負荷で回答精度を向上できるチャットボットがあれば、このような失敗はなくなるかもしれません。

進化したAIチャットボットは
「あのファイルどこ行った?」も解決できる

従来のAIチャットボットは、与えられたデータやシナリオに基づき、単純に質問に回答する機能だけを備えていました。しかし、問い合わせ業務の煩雑化は、ユーザーが必要な文書を即座に見つけられない仕組みが大きな要因の一つであるため、求められる機能は単純な自動応答だけではありません。

たとえばチャットを窓口として、営業担当者が類似案件の提案書を容易に見つけられる、開発担当者が膨大なページ数の技術文書の中から素早く必要な情報を見つけられる、サイトを訪れた顧客が尋ねるだけで必要なコンテンツにアクセスできるなどの機能があれば、回答内容はユーザーを満足させられる、深いものとなります。

進化したAIチャットボットは「あのファイルどこ行った?」も解決できる

新しいAIチャットボットの中には、ファイルサーバーに格納されているオフィス文書やPDFなどの情報を検索すると同時に、蓄積した操作履歴をもとに関連性の高い文書を自動的にレコメンドするものもあります。すでに存在するデータをAIの学習データに使えれば、FAQにとどまらない多様なデータが活用できます。さらに、これまで気付けなかった文書間の関連性が可視化されることで、社内に眠る多くのデータを価値ある情報資産に変え、ビジネスでの活用を促進します。

ビジネスマンは情報を探すのに年間150時間を費やすとも言われています。質問を投げかければ、それに必要なファイル検索までをAIチャットボットがやってくれるのであれば、人間は本来の仕事に集中できます。AIチャットボットは、正しい選び方をすれば、組織の生産性を大きく改善する可能性を秘めているのです。

次章では、AIチャットボットを選ぶうえで押さえておくべきポイントについて解説します。